キュクロプスの眼
松本ナオキの作品はいつも常識を超えた美しい裏切りに満ちている。
その作品を手にしたならば、鉄は重いという思い込みがまず裏切られる。
溶解した鉄を鋳型に流し込んで創られてはいないからだ。
薄鉄板を叩き出して形にしていく。だから中は空洞となって軽さが生まれる。
また、鉄が硬い金属であるという常識も退けられてしまう。
岩絵具で化粧を施された作品に鉄の硬さは影を潜め、硬軟が巧妙に変身させられている。
そのフォルムを見よ。時に可笑しみを湛えているフォルムは、
金属の面影が遠くに避難し魂を持つクリーチャーが存在している。
このようなクリーチャーを創造する松本ナオキには、
天目一箇神それともキュクロプスが憑いているに違いない。
日本と古代ギリシャの鉄の神は共に隻眼。
松本ナオキの両眼の奥にはもう一つ鉄の神の眼が宿り、
この世界にこれからも美しい裏切りを創造し続けていくだろう。
高谷丘人(美術愛好家)
2022年10月19日(水)~10月30日(日)
12:00~19:00 最終日17:00 月曜休廊