昭和58年。父52歳。まだ青薄墨色の時代。それからほどなく猩々緋を使うようになる狭間の頃だ。
橋や煙突、ガード下、崩れそうな木造家屋、動物園、美しい女性、あらゆる光景をデッサンしていた。
家に居ても、ちょっとした一瞬、テレビCMの1ショット、ネコ、果ては私の落書き、なんでもデッサンする。
どの瞬間も手を動かし続け、心臓の鼓動が止まるその時まで、「俺は絵のことしか考えていない」
と言っていた父の死後、写真が出てきて知ったが、街歩きデッサンは彼女同行だった。
いつでもどこかふっと脱力するような可笑しみがある絵は隙だらけの父そのものだし、
細かな解釈は些末であり、老成した無垢な赤子のような画面全体がただひたすら父なのだ。井上真樹
(2月3日七回忌を迎えます)
 
2022年2月2日(水)~2月13日(日)
12:00~19:00 最終日17時まで 月曜休廊

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